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MTAセメントとは?歯科での用途・成分・費用から治療後の痛みまで徹底解説

MTAセメントは、1993年にアメリカで開発された歯科用材料です。

Mineral Trioxide Aggregateの頭文字を取った名称で、根管治療・直接覆髄・歯髄温存療法など幅広い用途に用いられています。

硬化時間は3〜4時間、圧縮強度は67MPa以上。

優れた封鎖性と殺菌効果、高い生体親和性を兼ね備えるため、成功率の向上が期待できる素材です。

治療費は保険外となるケースが多く、1歯あたり5,000〜30,000円が相場とされています。

虫歯が深く神経に近い症例でも、MTAセメントを活用した歯髄保存治療により、抜歯を回避できる可能性が広がります。

目次

MTAセメントとは歯科用の水硬性セメントで神経を残す治療に使われる材料

MTAセメントは、歯科治療において歯の神経を残すために使用されるケイ酸カルシウム系の水硬性セメントです。

虫歯が深く進行して神経に達した場合でも、このMTAセメントを充填することで歯髄を保存できる可能性があります。

従来であれば抜髄:神経を抜く処置が必要だった症例にも適応でき、歯の寿命を延ばす歯科材料として高い評価を得ています。

殺菌効果や封鎖性に優れ、生体親和性も良好なため、世界中の歯科治療で採用が進んでいる状況です。

MTAセメントは覆髄だけでなく根管充填や穿孔封鎖にも用いられ、歯科用セメントのなかでも幅広い用途をもつ材料といえます。

MTAセメントの正式名称はMineral Trioxide Aggregateで1993年に米国で開発された

MTAセメントの正式名称はMineral Trioxide Aggregate:ミネラルトライオキサイドアグリゲートで、日本語では鉱物三酸化物集合体と訳されます。

1993年に米国ロマリンダ大学のTorabinejad博士によって歯科領域への応用を目的に開発され、1998年にFDA承認を取得したのち1999年にProRoot MTAとしてデンツプライ社から米国で発売されました。

MTAという名前はMineral Trioxide Aggregateの3語の頭文字をとった略称であり、英語圏でも同じ呼称が使用されています。

日本国内では2007年にプロルートMTAが販売開始となり、歯科医院への普及が本格化しました。

開発から30年以上の歴史を経て、覆髄材のゴールデンスタンダードとしての地位を確立した歯科材料です。

Mineral trioxide aggregate:MTAは1990年代初頭に米国で開発された歯内治療用材料で、ProRoot MTA:Dentsply Tulsa Dentalとして製品化された。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.50 No.2 – 新潟大学歯学部

MTAセメントの主成分はケイ酸カルシウムと酸化ビスマスなどの無機質酸化物

MTAセメントの主成分は、ケイ酸二カルシウム・ケイ酸三カルシウム・アルミン酸三カルシウムなどの無機質酸化物です。

これらの成分はポルトランドセメントと共通する組成をもちますが、歯科用として高純度に精製されている点が大きく異なります。

加えて、レントゲンでの造影性を確保するため酸化ビスマスまたは酸化ジルコニウムが造影剤として添加されています。

MTAセメントの粉末を精製水と練和すると水和反応が起こり、ケイ酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムの結晶が生成されて硬化します。

水と反応して固まる水硬性セメントであるため、湿潤環境の口腔内でも安定した硬化が得られる利点があります。

MTAの主要な構成成分は、工業用セメントとして汎用されるポルトランドセメントと同様、ケイ酸二カルシウム:2CaO・SiO2、ケイ酸三カルシウム:3CaO・SiO2、アルミン酸三カルシウム:3CaO・Al2O3などの無機質酸化物であり、これに石膏および造影材として酸化ビスマスが添加されている。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.50 No.2 – 新潟大学歯学部

水酸化カルシウムとMTAセメントの成分や封鎖性の違いを比較

水酸化カルシウム製剤とMTAセメントはいずれも覆髄材として使用されますが、成分や封鎖性に明確な違いがあります。

水酸化カルシウム製剤は硬化せずに徐々に溶解する性質をもつため、長期的な封鎖性に課題を抱えています。

一方、MTAセメントは水和反応によって硬化し、さらにわずかに膨張する特性があるため、辺縁の封鎖性で格段に優れた性能を発揮します。

水酸化カルシウム製剤とMTAセメントの主な項目を比較した結果は以下のとおりです:

比較項目 水酸化カルシウム製剤 MTAセメント
主成分 水酸化カルシウム ケイ酸カルシウム・酸化ビスマス
硬化性 硬化しない:経時的に溶解 水和反応で硬化:膨張性あり
封鎖性 経時的に低下する 高い封鎖性を長期間維持
直接覆髄の成功率 56〜74%程度 81〜91%程度
保険適用 保険適用あり 直接覆髄のみ一部適用
材料費 安価 1回5,000円以上

封鎖性と材料の安定性を重視する場合はMTAセメントが適しており、コストを抑えて短期的な覆髄を行う場合は水酸化カルシウム製剤が選択肢になります。

MTAは封鎖性と材料の安定性に優れており、その操作性に若干の問題があるものの臨床的に有利と思われる。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.39 No.2 – 新潟大学歯学部

ポルトランドセメントとMTAセメントは造影剤と純度に違いがある

ポルトランドセメントとMTAセメントは主成分が類似していますが、製造工程と純度に決定的な差があります。

一般工業用のポルトランドセメントには微量の重金属が混入するリスクがあり、歯髄に直接接触させる用途には適しません。

MTAセメントは歯科専用として製造管理を徹底しており、微量成分の汚染を排除するための独自技術が採用されています。

加えて、レントゲンで充填状態を確認できるよう酸化ビスマスや酸化ジルコニウムといった造影剤が配合されている点もポルトランドセメントとの相違点です。

歯科で使用する場合は、安全性と造影性を兼ね備えたMTAセメントの使用が不可欠といえます。

一般工業用のポルトランドセメントとの最大の違いはこの製造方法にある。

口腔内、特に歯髄に接触する材料としては微量成分の汚染等のコントロールを行うことが重要であると考え、独自の製造技術開発から行うこととした。

引用元:NEX MTAセメントの開発 – J-STAGE

MTAセメントの特徴は殺菌効果・封鎖性・生体親和性・硬組織誘導能に優れること

MTAセメントの最大の特徴は、殺菌効果・封鎖性・生体親和性・硬組織誘導能の4つが高い水準で両立している点にあります。

強アルカリ性による殺菌効果で細菌の増殖を抑制し、硬化時の膨張により根管壁や窩洞壁との間に隙間が生じにくい封鎖性を実現します。

生体親和性の高さから歯髄に対する為害作用が小さく、水酸化カルシウムの徐放によって象牙芽細胞の分化を促進する硬組織誘導能も備えています。

MTAセメントの4つの特徴を以下に整理しました:

  • 殺菌効果:pH12.5の強アルカリ性により口腔内の細菌や真菌を抑制し、感染リスクを低減する
  • 封鎖性:水和反応による膨張で辺縁漏洩を防ぎ、外来刺激から歯髄を長期的に保護する
  • 生体親和性:細胞毒性と変異原性が低く、歯髄組織に対する炎症反応が軽微である
  • 硬組織誘導能:カルシウムイオンの持続的な溶出がデンチンブリッジ形成と象牙質再生を促進する

これら4つの特性が複合的に作用することで、MTAセメントは覆髄材として高い臨床成績を達成しています。

MTAセメントは高い封鎖性、抗菌性、生体適合性、石灰化組織の形成誘導能力をもつ覆髄材として、臨床で広く使われており、その予後がよいことが報告されている。

引用元:科学研究費助成事業データベース KAKENHI-PROJECT-18K09597 – kaken.nii.ac.jp

水和反応でpH12.5のアルカリ性を示し細菌を殺菌する効果がある

MTAセメントの殺菌効果は、水和反応によって生じる強アルカリ性に起因しています。

練和直後のpHは約10ですが、3時間後にはpH12.5に達し、この環境下では口腔内の細菌や真菌が生存できない状態になります。

硬化体を水中に浸漬した場合もカルシウムイオンと水酸化物イオンが持続的に溶出し、溶液のpHが12程度に維持されるため、長期的な抗菌効果が期待できます。

水酸化カルシウム製剤も同様のメカニズムで殺菌作用を発揮しますが、MTAセメントは硬化後も安定的にアルカリ性を維持する点で異なります。

この持続的な殺菌効果が、治療後の再感染リスクを抑える重要な要素として機能しています。

練和直後のpHは10程度であるが、3時間後には12.5に達し、強アルカリ性を示す。

水酸化カルシウムと同様、ProRoot MTAもその強アルカリ性により様々な細菌や真菌に対して抗菌効果を示す。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.50 No.2 – 新潟大学歯学部

硬化時に膨張しヒドロキシアパタイトを形成して象牙質を再生する

MTAセメントは硬化時にわずかに膨張する性質をもち、この膨張が窩洞壁や根管壁との密着性を高めて封鎖性の向上に寄与します。

硬化体をリン酸を含む体液に浸漬すると、溶出したカルシウムイオンがリン酸イオンと反応してヒドロキシアパタイト:リン酸カルシウム結晶が表面に析出します。

このヒドロキシアパタイトは天然の歯質と同様の結晶構造をもち、象牙質との界面に沈着することで化学的な結合が形成されます。

さらに、溶出するカルシウムイオンが象牙芽細胞の分化を促すことで、デンチンブリッジと呼ばれる新生象牙質の形成を誘導します。

封鎖性の向上と象牙質の再生を同時に達成できるのが、MTAセメント固有の強みといえるでしょう。

MTA硬化体をリン酸緩衝液あるいは疑似体液中に浸漬すると、溶出するカルシウムイオンがリン酸イオンと反応し、その表面にアパタイト構造を含むリン酸カルシウム結晶が析出することが示されており、本材の生体親和性や硬組織誘導能との関連性が想定される。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.50 No.2 – 新潟大学歯学部

MTAセメントの歯科での用途と適応症は覆髄・根管充填・穿孔封鎖など幅広い

MTAセメントは覆髄・根管充填・穿孔封鎖を含む幅広い歯科治療で使用される歯内治療用材料です。

歯髄保存療法における覆髄剤としての使用が代表的ですが、根管充填材や逆根管充填材、さらにはパーフォレーションリペア:穿孔封鎖にも適応されます。

封鎖性・殺菌効果・生体親和性に優れるMTAセメントの特徴が、これほど多様な用途を可能にしている根拠です。

深い虫歯治療で神経を残す場面から、難易度の高い根管治療で再感染を防止する場面まで、さまざまな症例に対応できます。

ただし、すべての歯科治療に適応できるわけではなく、自発痛を伴う不可逆性歯髄炎や重度の歯周病を併発している症例には使用できません。

用途と適応症を正しく理解したうえで歯科医師と相談し、治療方針を決定することが望ましいでしょう。

MTAセメントは歯内治療用セメント:覆髄材・根管壁穿孔部封鎖材・根管充填材・根尖部封鎖材・逆根管充填材・外部吸収抑制材として、歯内治療の様々な場面で使用されている。

引用元:KAKEN 18K09614 成果報告書 – kaken.nii.ac.jp

直接覆髄と間接覆髄でMTAセメントを使い歯髄を温存する歯髄保存療法

歯髄保存療法:VPTは、MTAセメントを用いて歯の神経を温存する治療法で、直接覆髄と間接覆髄の2つの方法があります。

虫歯の除去中に歯髄が露出した場合は直接覆髄、歯髄に近接するが露出していない場合は間接覆髄としてMTAセメントを適用します。

いずれの方法も歯髄を保存することで歯の寿命を延ばすことを目的としており、抜髄を回避できる点が最大の利点です。

MTAセメントの殺菌効果とデンチンブリッジ形成の促進作用が、歯髄保存療法の高い成功率を支えています。

将来的に被せ物や詰め物が必要になった場合も、神経が残っている歯は歯質の強度が維持されるため、長期的な予後が良好になる傾向があります。

直接覆髄は露髄した神経をMTAセメントで保護しデンチンブリッジ形成を促す

直接覆髄は、虫歯除去後に歯髄が点状に露出した症例で、MTAセメントを露髄面に直接充填して神経を保護する術式です。

MTAセメントの強アルカリ性が露髄面の細菌を殺菌し、カルシウムイオンの溶出が象牙芽細胞様細胞の分化と配列を促進します。

動物実験では術後5日で線維性基質と新生象牙芽細胞様細胞の配列が観察され、7日以降には細管構造をもつデンチンブリッジの形成が確認されています。

このデンチンブリッジが天然の蓋として機能することで、歯髄は外来刺激から持続的に保護される仕組みです。

直接覆髄法の成功には露髄径の大きさと止血の状態が重要な要素となるため、マイクロスコープ下での精密な処置が求められます。

ラット臼歯にMTAによる直接覆髄処置を施し経時的に観察したところ、術後5日に線維性基質の形成と新生象牙芽細胞様細胞の配列が観察された。

7日以降には細管構造を有する象牙質様基質の形成が認められるようになった。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.50 No.2 – 新潟大学歯学部

間接覆髄は神経に近接する深い虫歯にMTAセメントを裏層として使う

間接覆髄は、神経が露出していないものの虫歯が歯髄の近くまで進行している症例で、MTAセメントを裏層材として薄く充填する治療法です。

残存する薄い象牙質の上にMTAセメントを敷くことで、カルシウムイオンが象牙細管を通じて歯髄に到達し、修復象牙質の形成を促進します。

直接覆髄と比較して歯髄への直接的な刺激が小さいため、術後の疼痛や知覚過敏の発生率が低い傾向にあります。

間接覆髄の適応は、象牙質がわずかに残存しており歯髄の生活反応が確認できるC2程度の深い虫歯が中心です。

MTAセメントの裏層による保護効果で、将来的な抜髄リスクの低減が見込めます。

根管充填にMTAセメントを使い根管内を封鎖して再感染を防ぐ治療法

根管充填は、抜髄後の根管内を充填材で封鎖して再感染を防止する処置であり、MTAセメントはこの用途でも優れた実績を示しています。

従来のガッタパーチャによる根管充填と比較して、MTAセメントは封鎖性と殺菌効果の両面で高い性能を発揮します。

根管充填にMTAセメントを使用する場合、保険適用外の自費診療となる点には注意が必要です。

厚生労働省の中医協に提出された選定療養提案書では、歯科関係学会がMTAセメントの根管治療への保険適用を選定療養として申請していることが記載されています。

根管充填への適応は太い根管や湾曲根管など封鎖が難しい症例で特に有効であり、再根管治療のリスク低減が期待できるでしょう。

保険材料として収載されていないために現状では治療の全額が自費治療となっているが、選定療養費として収載されれば抜髄および抜歯をしなくて済む症例が増加し、国民の口腔状態の向上につながるものと思われる。

引用元:厚生労働省 中医協 選定療養提案書 – mhlw.go.jp

逆根管充填は歯根端切除術後の根尖にMTAセメントを充填する方法

逆根管充填は、通常の根管治療では治癒しない症例に対して行われる歯根端切除術の後に、切断した根尖部をMTAセメントで封鎖する術式です。

歯根の先端を外科的に切除し、根尖側からMTAセメントを逆方向に充填することで、根管系からの細菌漏洩を完全に遮断します。

ProRoot MTAを用いた逆根管充填の成功率は92.1%と報告されており、高い臨床成績が確認されています。

MTAセメントの膨張性と封鎖性が根尖部の緊密な封鎖を実現し、術後の治癒率向上に貢献しています。

歯根端切除術は外科的な侵襲を伴うため、マイクロスコープを用いた精密な処置が求められる治療法です。

ProRoot MTA group had a success rate of 92.1%, and the ERRM group had a success rate of 92.4% with no significant difference between the groups.

引用元:PubMed PMID: 31916974 – J Endod. 2020

ガッタパーチャとMTAセメントの違いは封鎖性と殺菌効果にある

ガッタパーチャは保険診療の根管充填で標準的に使用されるゴム状の充填材であり、MTAセメントとは材料特性が根本的に異なります。

ガッタパーチャは加熱や加圧で軟化させて根管に充填しますが、硬化後に収縮する性質があるため辺縁漏洩のリスクが存在します。

MTAセメントは硬化時に膨張して根管壁に密着するため、封鎖性の面でガッタパーチャを上回る性能を発揮します。

ガッタパーチャとMTAセメントの封鎖性や殺菌効果を比較した結果は以下のとおりです:

比較項目 ガッタパーチャ MTAセメント
材料の種類 ゴム状充填材 水硬性セメント
硬化時の体積変化 収縮 膨張
封鎖性 中程度:辺縁漏洩リスクあり 高い:膨張により密着
殺菌効果 なし pH12.5の強アルカリ性で殺菌
生体親和性 良好 優れている:硬組織誘導能あり
保険適用 保険適用あり 根管充填は保険適用外
除去性 再治療時に除去が容易 硬化後の除去が困難

封鎖性と殺菌効果を優先して再感染のリスクを最小化したい場合はMTAセメント、再治療の可能性を見据えて除去性を重視する場合はガッタパーチャが適しており、症例の状態に応じて歯科医師と材料選択を相談することが重要です。

穿孔封鎖やパーフォレーションリペアにもMTAセメントが適応される

穿孔封鎖:パーフォレーションリペアは、根管治療中の偶発的な穿孔や病的な吸収によって生じた歯質の欠損部をMTAセメントで封鎖する治療法です。

穿孔部を放置すると根管内に細菌が侵入して炎症が拡大し、最終的に抜歯に至る可能性があるため、速やかな封鎖が求められます。

MTAセメントは湿潤環境でも硬化する親水性をもつため、出血や浸出液が存在する穿孔部にも適用できる利点があります。

封鎖性と組織親和性の高さから、穿孔封鎖におけるMTAセメントの有用性は国内外の学術論文で広く報告されています。

以前は穿孔が生じた歯は予後不良と判断されるケースが多かった一方、MTAセメントの登場により歯の保存が可能になった症例が増加しました。

MTAは封鎖性、組織親和性が良好で、細胞毒性および変異原性が少ないことから歯科臨床では穿孔部封鎖、逆根管充填、歯髄覆髄等に使用され、良好な臨床成績が報告されている。

引用元:東京都歯科医師会誌 2025年4月号 – tokyo-da.org

MTAセメントが適応しない症例は自発痛がある不可逆性歯髄炎や感染歯髄

MTAセメントは万能の歯科材料ではなく、適応が認められない症例も明確に存在します。

自発痛を伴う不可逆性歯髄炎では歯髄がすでに壊死に向かっている状態であり、MTAセメントによる覆髄では治癒が見込めません。

感染が歯髄全体に及んでいる場合や、排膿を認める症例でもMTAセメントの適応外となります。

MTAセメントが適応しない主な症例を以下に簡潔にまとめました:

  • 自発痛:何もしなくてもズキズキ痛む症状がある不可逆性歯髄炎の症例
  • 中等度から重度の歯周病を併発しており、歯周組織からの感染経路が存在する症例
  • 内部吸収や外部吸収が進行して歯質の保存が困難な症例
  • 根管内に排膿が認められ、感染のコントロールができていない症例
  • 修復治療:被せ物や詰め物が物理的に不可能な歯冠崩壊が著しい症例

自発痛がある場合は抜髄:神経を抜く処置が適応となるため、症状の正確な診断を受けたうえで治療方針を決定する必要があります。

禁忌症は、中等度から重度の歯周病や内部吸収または外部吸収、根管の石灰化、排膿を認める症例、修復治療が不可能な症例である。

引用元:日本歯内療法学会雑誌 Vol.45 No.1 – jstage.jst.go.jp

MTAセメント治療のメリットは神経を残し歯の寿命を延ばせること

MTAセメント治療の最大のメリットは、歯の神経を残すことで歯そのものの寿命を延ばせる点にあります。

神経を抜いた歯は血液供給が途絶えて脆くなり、将来的に歯根破折や再感染のリスクが高まる傾向にあります。

MTAセメントによる歯髄保存療法であれば、神経と血管が生きた状態を維持できるため、歯質の強度と抵抗力が保たれます。

一方、保険適用外で費用が高いことや硬化に時間がかかること、前歯での変色リスクといったデメリットも把握しておく必要があります。

メリットとデメリットの双方を理解し、自身の症例に合った選択をすることが後悔のない治療への第一歩です。

MTAセメントで神経を残す治療の成功率は約90〜95%と高い水準にある

MTAセメントを用いた歯髄保存療法の成功率は約90〜95%と高く、従来の水酸化カルシウム製剤と比較して統計的に有意な差が認められています。

システマティックレビューのデータでは、MTA直接覆髄の成功率が6ヶ月時点で91%、1年時点で86%、2〜3年時点で84%と報告されています。

全部断髄:歯髄切断を含む歯髄保存療法では、12ヶ月の臨床的成功率が97.4%、エックス線写真的成功率が95.4%に達するというデータも存在します。

成功率に影響する因子としては、露髄径の大きさ・患者の年齢・術前の歯髄の状態・術者の技術が挙げられています。

長期的に高い成功率を維持するためには、適切な症例選択と精密な術式の遂行が前提条件となります。

Mineral trioxide aggregate:MTA success was 91%, 86%, 84% and 81% at the same time points.

The meta-analysis revealed MTA had better success than calcium hydroxide at 1-year:OR 2.66, P = 0.001 and 2- to 3-year follow-up:OR 2.21, P = 0.0004.

引用元:PubMed PMID: 33222178 – Int Endod J. 2021

水酸化カルシウム製剤と比較してMTAの直接覆髄は統計的に有意に成功率が高い

複数のランダム化比較試験:RCTとメタ分析が、MTAセメントの直接覆髄が水酸化カルシウム製剤より成功率で優れていることを実証しています。

RCTの結果ではProRoot MTAの成功率が93%であったのに対し、水酸化カルシウムの成功率は69%にとどまり、統計的に有意な差が確認されました。

長期コホート研究でもMTA群80.5%に対して水酸化カルシウム群59%という結果が示され、多変量解析でオッズ比2.67:P = 0.001と報告されています。

メタ分析ではオッズ比2.72:P = 0.000と算出され、MTAセメントの全パラメータにおける優位性が確認されています。

デンチンブリッジの形成予測性が高く炎症反応が軽微である点が、MTAセメントの成功率を押し上げている要因と考えられます。

The success rate was 69% for CH and 93% for ProRoot MTA:P < .05.

The kappa value of interrater agreement was 0.773.

引用元:PubMed PMID: 31104819 – J Endod. 2019

MTA cements showed a significantly higher success rate, in all parameters, compared with calcium hydroxide cements:odds ratio = 2.72; P = 0.000.

引用元:PubMed PMID: 30514444 – J Evid Based Dent Pract. 2018

MTAセメントのメリットは封鎖性・殺菌効果・湿潤環境でも硬化する親水性

MTAセメントには歯髄保存以外にも複数のメリットがあり、歯科材料としての総合的な性能の高さが際立っています。

封鎖性は従来の覆髄材や根管充填材と比較して格段に優れており、辺縁漏洩試験で全く漏洩が認められないという結果が報告されています。

pH12.5の強アルカリ性に由来する殺菌効果は根管内や窩洞内の細菌増殖を抑制し、治療後の再感染リスクを低減します。

MTAセメントのメリットを以下に整理しました:

  • 封鎖性が高く硬化時に膨張するため、歯質との間に隙間が生じにくい
  • pH12.5の強アルカリ性で細菌や真菌に対する持続的な殺菌効果を発揮する
  • 水硬性セメントであるため湿潤環境の口腔内でも安定して硬化する
  • カルシウムイオンの持続的溶出によりデンチンブリッジ形成と象牙質再生を誘導する
  • 生体親和性が高く歯髄に対する細胞毒性と変異原性が低い

湿潤環境でも硬化する親水性は、出血や浸出液が避けられない口腔内の治療において実用上のメリットが大きく、水酸化カルシウム製剤にはない独自の優位性といえます。

MTAセメントのデメリットは保険適用外で費用が高く硬化に時間がかかること

MTAセメントにはメリットが多い一方、患者が理解しておくべきデメリットも存在します。

根管充填や穿孔封鎖での使用は保険適用外の自費診療となるため、1歯あたり1万〜5万円の材料費に加えて被せ物の費用も全額自己負担です。

硬化時間が練和後3〜5時間と長いため、治療を2回に分けて行うケースが多く、患者の通院回数が増加します。

MTAセメントのデメリットを以下に簡潔にまとめました:

  • 保険適用は直接覆髄の一部のみで、根管充填や穿孔封鎖は全額自費負担となる
  • 材料費が1回5,000円以上と高額で、治療費全体の相場は1万〜5万円に達する
  • 硬化に3〜5時間を要するため即日修復が困難で、2回以上の通院が必要になる場合がある
  • 酸化ビスマス含有製品では前歯に変色リスクがあり審美面の配慮が求められる
  • 硬化後の除去が極めて困難なため、再治療が必要になった場合の対応に制約が生じる

費用面と治療期間の負担を許容できるかどうかが、MTAセメント治療を選択する際の判断基準になるでしょう。

酸化ビスマス含有のMTAセメントは前歯に変色リスクがあるため注意が必要

MTAセメントの造影剤として使用される酸化ビスマスが、歯の変色の原因となる可能性があります。

酸化ビスマスが次亜塩素酸ナトリウム:根管洗浄に使用される薬液と接触すると、薄い黄色から暗褐色に変色する化学反応が生じることが研究で明らかになっています。

前歯部の直接覆髄でこの変色が起こると審美的な問題に直結するため、酸化ビスマス含有のMTAセメントを前歯に使用する際は慎重な判断が必要です。

近年は酸化ビスマスの代わりに酸化ジルコニウムを造影剤として配合したMTAセメント:TMR-MTAセメントやBioMTAセメントなどが開発されており、変色リスクへの対策が進んでいます。

前歯の治療を検討する場合は、歯科医師に変色リスクの少ない製品の使用を確認するのが賢明です。

Bismuth oxide in contact with sodium hypochlorite exhibited a change in colour from light yellow to dark brown.

Clinical relevance: MTA Angelus should not be used after irrigation with sodium hypochlorite as this will result in tooth discoloration.

引用元:PubMed PMID: 25922130 – Clin Oral Investig. 2015

MTAセメント治療後に再治療が必要になると除去が困難なケースがある

MTAセメントは硬化後に高い圧縮強度を示すため、万一再治療が必要になった場合の除去が技術的に困難です。

ガッタパーチャであれば加熱や溶剤で軟化して除去できますが、MTAセメントは無機質酸化物の水和反応で硬化しているため化学的な溶解が容易ではありません。

超音波チップを用いた機械的な除去が試みられますが、歯質への損傷リスクが伴うため慎重な操作が求められます。

このため、MTAセメントの適用は初期診断の精度が高く、適応症が明確な症例に限定することが望ましいとされています。

歯髄壊死や再感染が生じた場合に備えた治療計画を事前に立てておくことが、MTAセメント治療で後悔しないための重要な要素になります。

MTAセメントの費用相場は1万〜5万円で保険適用は一部の直接覆髄のみ

MTAセメント治療の費用は自費診療で1歯あたり1万〜5万円が相場であり、保険が適用されるのは一部の直接覆髄に限定されています。

材料費だけで1回5,000円以上かかるMTAセメントの特性上、保険診療の点数では採算が合わない構造が背景にあります。

費用が高額になる分、神経を残せることで将来の抜髄費用や再治療費用を節約できるという考え方もあります。

被せ物や詰め物の費用を含めた総額は5万〜15万円程度に達する場合があるため、事前に歯科医院で見積もりを確認するのが望ましいでしょう。

自費診療であっても医療費控除の対象になるため、確定申告による税負担の軽減策も把握しておくと経済的な負担を抑えられます。

MTAセメント治療の費用は自費診療で1万円〜5万円が相場となる

MTAセメント治療の費用相場は歯科医院によって幅がありますが、1歯あたり1万〜5万円程度が一般的な水準です。

材料費・技術料・診察料を含んだ金額で設定されており、マイクロスコープやラバーダム防湿を併用する医院では上限に近い価格帯になる傾向があります。

自由診療であるため料金は各歯科医院が独自に設定しており、同じMTAセメントを使用していても料金に差が生じます。

安い医院では1万円台から対応しているケースもありますが、使用する製品の種類や治療の精度に違いがある可能性も考慮すべきです。

費用の安さだけで歯科医院を選ぶのではなく、使用するMTAセメントの製品名・治療に使用する設備・術者の経験を総合的に判断して決定することが重要です。

被せ物や詰め物の費用を含めた総額は5万〜15万円程度かかる場合がある

MTAセメント治療の費用はMTAセメントの充填処置だけで完結するわけではなく、その後の修復治療の費用も総額に含まれます。

MTAセメントで覆髄した歯には、コンポジットレジンやセラミック、ジルコニアなどの被せ物や詰め物を装着する必要があり、これらの費用も自費診療扱いです。

被せ物の種類によって費用は大きく変わり、コンポジットレジンによるダイレクトボンディングであれば3万〜5万円、セラミッククラウンであれば8万〜15万円が目安となります。

MTA充填3万円にセラミッククラウン10万円を加えると総額13万円に達する計算であり、治療前に総額の見積もりを取得しておくことが不可欠です。

歯科医院によっては治療計画書に総額を明記してくれるため、初診相談の段階で費用の全体像を確認する姿勢が求められます。

MTAセメントの費用が高い理由は材料費が1回5,000円以上と高額なため

MTAセメント治療の費用が高くなる最大の要因は、MTAセメントそのものの材料費が1回あたり5,000円以上と高額な点にあります。

MTAセメントは少量の個包装で販売されており、開封後は使い切りが原則であるため材料の無駄が発生しやすい構造です。

ポルトランドセメントをベースとしながらも歯科専用の高純度精製工程を経ているため、製造コストが工業用セメントとは比較にならないほど高くなります。

保険診療の覆髄処置の点数:数百円の範囲では材料費すら回収できないため、実質的にほぼすべてのMTAセメント治療が自費診療として提供されている実態があります。

材料費の高さに加えて、マイクロスコープやラバーダムといった設備の使用料と術者の高度な技術料が上乗せされることで、最終的な治療費が高額になる構造です。

MTAセメントの保険適用は覆髄処置のみで根管充填は保険適用外の自費診療

MTAセメントの保険適用範囲は日本国内では直接覆髄のみに限定されており、根管充填・穿孔封鎖・逆根管充填などの用途では保険が適用されません。

東京都歯科医師会誌によると、保険診療で認可されているのは直接覆髄への使用のみですが、前述のとおり材料費と保険点数の乖離から実際に保険で使用する歯科医院は限られています。

厚生労働省の中医協に対して歯科関係学会がMTAセメントの根管治療への保険適用を選定療養として申請しており、将来的に保険適用範囲が広がる可能性があります。

現時点で根管充填や穿孔封鎖にMTAセメントを使用する場合は全額自費負担となるため、費用面の計画を立てたうえで治療に臨むのが賢明でしょう。

保険診療では直接覆髄にのみ日本国内では認可された。

引用元:東京都歯科医師会誌 2025年4月号 – tokyo-da.org

MTAセメント治療は医療費控除の対象になるため確定申告で還付を受けられる

MTAセメント治療は自費診療であっても医療費控除の対象として確定申告で申請できます。

国税庁の規定では、歯科医師による診療または治療の対価で一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額が医療費控除の対象となっており、MTAセメント治療はこの要件を満たします。

年間に支払った医療費の合計が10万円:総所得金額200万円未満の場合は総所得の5%を超えた分が控除対象です。

MTAセメント治療3万円に被せ物10万円を加えた総額13万円であれば、3万円分が控除対象額の計算に算入されます。

配偶者や扶養家族の医療費も合算できるため、領収書を保管して確定申告時に申請することで税負担の軽減が見込めるでしょう。

MTAセメント治療後の痛みやしみる症状は一時的で経過観察が重要

MTAセメント治療後に痛みやしみる症状が出ることがありますが、多くの場合は一時的な反応であり、数日〜数週間で改善に向かいます。

MTAセメントの強アルカリ性が歯髄に一過性の刺激を与えるため、治療直後に軽度の疼痛や知覚過敏を感じる患者は一定数存在します。

ランダム化比較試験では、MTA群の術後18時間の疼痛スコアが水酸化カルシウム群よりも有意に低かったと報告されており、MTAセメント特有の痛みが強いわけではありません。

治療後は3〜6ヶ月ごとの定期的な経過観察で歯髄の生活反応を確認し、問題がないかを継続的にチェックすることが重要です。

痛みがいつまでも続く場合や激痛に発展する場合は歯髄壊死の可能性があるため、早期に歯科医院を受診する必要があります。

MTAセメント治療後に痛みやしみる症状が出る原因と痛みがいつまで続くか

MTAセメント治療後の痛みやしみる症状は、MTAセメントの強アルカリ性による歯髄への一過性刺激が主な原因です。

練和3時間後にpH12.5に達するMTAセメントの強アルカリ性は、細菌を殺菌する一方で歯髄の神経線維にも一時的な刺激を与えます。

冷たいものや熱いものがしみる知覚過敏の症状は、治療後数日〜数週間で徐々に軽減していくケースがほとんどです。

噛むと痛い症状は、MTAセメントの硬化過程における歯質への応力変化が原因である場合があり、硬化が完了する1〜3ヶ月後には改善する傾向があります。

PMDAの添付文書では治療後3〜6ヶ月ごとにX線検査を含む歯髄の生死診査を行うことが推奨されており、定期的な経過観察によって異常の早期発見が可能です。

処置後は、3〜6カ月毎に、必要に応じてX線検査などを用いて歯髄の生死を診査すること。

引用元:PMDA 添付文書 TMR-MTAセメント – pmda.go.jp

治療後にズキズキと自発痛がある場合は歯髄壊死の可能性があり再治療を検討する

MTAセメント治療後にズキズキとした自発痛が持続する場合は、歯髄壊死が進行している可能性を考慮する必要があります。

覆髄処置の時点ですでに歯髄の炎症が不可逆的な段階に達していた場合、MTAセメントで保護しても歯髄の回復が得られないケースがあります。

10年間の後ろ向き研究では、露髄面積が大きいほど歯髄壊死のリスクが高まることが統計的に示されており、術前の診断精度が予後を左右する重要な因子です。

自発痛が1週間以上続く場合や、痛み止めを服用しても改善しない激痛がある場合は、歯髄壊死を疑って速やかに歯科医院を受診する必要があります。

歯髄壊死が確認された場合は抜髄と根管治療への移行が不可避となりますが、早期の対応によって感染の拡大と歯の喪失は防ぐことが可能です。

A statistically significant correlation between the pulp-capping material and the occurrence of pulp necrosis was discovered:p = 0.017.

For direct pulp-capping procedures, the area of pulp exposure was correlated with pulp necrosis:p = 0.035.

引用元:PubMed PMID: 38999526 – J Clin Med. 2024

噛むと痛い・冷たいものや熱いものがしみる症状は知覚過敏で数週間で改善する

MTAセメント治療後に噛むと痛い症状や冷たいもの・熱いものがしみる症状は、歯髄の神経線維が一時的に過敏になっている知覚過敏に該当するケースがほとんどです。

MTAセメントのpH12.5という強アルカリ性は歯髄に化学的刺激を与えますが、経時的にpHが安定化するため、通常は数日〜数週間で症状が和らいでいきます。

ランダム化比較試験においても、MTA群と水酸化カルシウム群の間で疼痛の発生率に有意差はなく、MTAセメント固有の強い痛みが生じるわけではないと示されています。

噛んだときの痛みについては、MTAセメントの硬化に伴う微細な膨張が咬合面の接触点に影響している可能性があり、咬合調整で改善する場合があります。

3ヶ月を過ぎても症状が改善しない場合は経過観察の段階で歯科医師に申告し、歯髄の生活反応を再評価することが推奨されます。

MTAセメント治療の失敗例と後悔しないための歯科医院選びのポイント

MTAセメント治療の失敗例として多いのは、術前診断の不備により不可逆性歯髄炎の症例にMTAセメントを適用してしまったケースと、術中の感染管理が不十分であったケースです。

知恵袋や口コミサイトの体験談でも、治療後に痛みが再発して結局抜髄になったという後悔の声が見られますが、その背景には適応症の見極め不足や無菌環境の確保不足が関わっている場合が少なくありません。

失敗のリスクを最小化するためには、マイクロスコープを用いた精密な診断と処置を行っている歯科医院を選ぶことが重要です。

MTAセメント治療の症例数が豊富な歯科医師であれば、適応症の判断精度が高く、術中の感染管理にも習熟していると考えられます。

初診相談の段階で使用するMTAセメントの製品名・マイクロスコープの有無・ラバーダム防湿の実施有無を確認し、治療体制を比較検討したうえで歯科医院を選択するのが後悔を防ぐ方法です。

MTAセメント治療にはマイクロスコープとラバーダム防湿が不可欠

MTAセメント治療を成功に導くうえで、マイクロスコープ:歯科用顕微鏡とラバーダム防湿は必須の設備といえます。

マイクロスコープは肉眼の3〜30倍の拡大視野を提供し、露髄面の正確な確認やMTAセメントの精密な充填を可能にします。

ラバーダム防湿はゴムのシートで治療する歯を口腔内から隔離する方法で、唾液や細菌の侵入を物理的に遮断して無菌的な環境を確保します。

MTAセメントは水硬性セメントであるため、唾液に含まれる水分で意図しない硬化が起こるリスクがあり、ラバーダム防湿なしでの使用は推奨されません。

歯科医院を選ぶ際はマイクロスコープとラバーダム防湿の両方を標準装備として使用しているかを確認し、治療の成功率を高める環境が整っている医院を選択することが望ましいでしょう。

MTAセメントの10年後や長期予後と経過観察で確認すべきこと

MTAセメント治療の長期予後は良好であり、10年後の歯髄生存率に関するデータでも高い成功率が報告されています。

10年間の後ろ向き研究では、患者の年齢が歯髄の生存維持と有意に関連しており、若年層ほど長期予後が良好であると示されています。

経過観察ではX線検査による根尖部の病変確認と、電気的歯髄診断による歯髄の生活反応の確認が主な診査項目です。

根尖部に透過像:暗い影が出現した場合は歯髄壊死や根尖性歯周炎が疑われるため、再治療の検討が必要になります。

MTAセメント治療後は最低でも3〜6ヶ月ごとの定期検診を3年間継続し、その後も年に1回のレントゲン撮影で長期的な経過観察を行うことが、歯の寿命を最大限に延ばすための基本方針です。

MTAセメントの種類と歯科で使われる主要製品をメーカー別に比較

MTAセメントには粉液型・プレミックス型・レジン含有型など複数のタイプがあり、国内外のメーカーからさまざまな製品が販売されています。

製品ごとに硬化時間・造影剤の種類・操作性・変色リスクが異なるため、治療目的や症例に応じた適切な選択が求められます。

日本国内で入手可能な主要製品としては、プロルートMTA:デンツプライシロナ・TMR-MTAセメント:ヤマキン・エンドセムMTA:ペントロン・NEX MTAセメント:ジーシー・BioMTAセメント:モリタ・セラカル:モリムラなどが挙げられます。

粉液型は伝統的なMTAセメントの形態で歴史と実績が豊富である一方、プレミックス型は練和不要で操作性に優れるという利点があります。

各製品の特徴を把握することで、歯科医師に対して治療で使用される製品についてより具体的な質問ができるようになるでしょう。

プロルートMTAはデンツプライシロナ製の歴史ある粉液型MTAセメント

プロルートMTA:ProRoot MTAは、デンツプライシロナ社が販売するMTAセメントの元祖ともいえる製品です。

1993年のMTA開発後、1998年にFDA承認を取得し1999年に米国で最初に商品化されたMTAセメントであり、世界中で最も多くの臨床研究とエビデンスが蓄積されています。

粉末と精製水を練和して使用する粉液型の製品で、造影剤には酸化ビスマスが配合されています。

日本では2007年に販売が開始され、歯内療法を専門とする歯科医師を中心に広く普及しました。

ただし、酸化ビスマスによる歯の変色リスクが報告されているため、前歯部での使用には注意が必要です。

臨床研究の豊富さと長期的な実績を重視する場合に適した製品といえます。

Mineral trioxide aggregate:MTAは1990年代初頭に米国で開発された歯内治療用材料で、ProRoot MTA:Dentsply Tulsa Dentalとして製品化された。

引用元:新潟歯学会雑誌 Vol.50 No.2 – 新潟大学歯学部

TMR-MTAセメントはヤマキン製の国内承認品でマゼテールやミエールがある

TMR-MTAセメントは、YAMAKIN株式会社が製造販売する国内承認のMTAセメントシリーズです。

造影剤に酸化ビスマスではなく酸化ジルコニウムを採用しているため、前歯の変色リスクが軽減されている点が特徴です。

ラインナップには粉末型のTMR-MTAセメント、プレミックスタイプのマゼテール、硬化後に半透明になるミエールの3種類があり、症例や目的に応じて使い分けが可能です。

PMDAの添付文書によると、硬化時間は37℃で30分以内:JIS T 6522準拠であり、プロルートMTAと比較してやや短い硬化時間を実現しています。

国内メーカー製品としてPMDAへの情報開示が充実しており、添付文書や製品レポートが日本語で入手しやすい利点もあります。

認証番号:229AABZX00044000 / 製造販売元:YAMAKIN株式会社 / 歯科材料5 歯科用接着充填材料 管理医療機器 歯科用覆髄材料

引用元:PMDA 添付文書 TMR-MTAセメント – pmda.go.jp

エンドセムMTAはペントロン製のプレミックスタイプで操作性に優れる

エンドセムMTA premixedは、ペントロンジャパン社が販売するプレミックスタイプのMTAセメントです。

シリンジに充填された中粘度のペーストとして提供されるため、粉末と精製水を練和する工程が不要であり、術者間のばらつきを最小化できる操作性が最大の利点です。

初期硬化時間は約12分:ISO 6876:2012準拠と、従来の粉液型MTAセメント:3〜5時間と比較して格段に速い硬化特性を示します。

口腔内の水分:象牙細管内液などを吸収して硬化するため、湿潤環境での使用にも適しています。

ユージノールとレジン成分を含まないフリー処方であり、流動性が良く気泡が入りにくい設計のため細部の充填に優れた製品です。

NEX MTAセメントはジーシー製でBioMTAはモリタ製のバイオセラミック系製品

NEX MTAセメントは株式会社ジーシー:GCが2013年に国産MTAセメントとして発売した粉液型の製品です。

自社工場でポルトランドセメントの製造から包装まで一貫して品質管理を行っており、レジン成分を配合しないシンプルな組成が特徴です。

少量の個包装で提供されるため材料の無駄が少なく、操作時間は練和後約4分、硬化時間は約90分と設定されています。

一方、BioMTAセメントは株式会社モリタが販売するバイオセラミック系のMTAセメントで、初期硬化2分30秒・最終硬化140分という速い硬化動態が特徴です。

充填後3分でコンポジットレジンを用いた修復治療に移行できるため、1回の診療で覆髄からレジン修復まで完了させることが可能です。

NEX MTAセメントとBioMTAセメントの硬化時間や特徴を比較した結果は以下のとおりです:

比較項目 NEX MTAセメント:ジーシー BioMTAセメント:モリタ
メーカー 株式会社ジーシー:GC 株式会社モリタ
タイプ 粉液型 粉液型
発売年 2013年 2015年頃
初期硬化時間 約90分 約2分30秒
操作時間 練和後約4分 練和後約3分
硬化初期pH 約12:強アルカリ性 約12.5:強アルカリ性
造影剤 酸化ビスマス 酸化ジルコニウム
変色リスク あり:酸化ビスマス由来 低い:酸化ジルコニウム採用
包装 少量個包装:0.3g等 0.3g×2や×8

前歯の変色リスクを回避したい場合は酸化ジルコニウム配合のBioMTAセメント、豊富な臨床研究データと国産品質を重視する場合はNEX MTAセメントを選択するのが合理的な判断基準となります。

NEX MTAセメントは国産MTAセメントとして2013年に発売された。

弊社工場にて、主成分のポルトランドセメントの製造から包装までを徹底した品質管理のもと一貫して行われている。

引用元:J-STAGE 接着歯学誌 Vol.18 No.1 – jstage.jst.go.jp

セラカルなどデュアルキュア型MTA系覆髄剤は光重合で即日修復が可能

セラカルPT:モリムラ/BISCO社は、光重合と化学重合を併用するデュアルキュア型のMTA系覆髄材料です。

従来の粉液型MTAセメントとは異なり、水と練和する必要がなく光照射によって速やかに硬化するため、即日でコンポジットレジン修復まで完了できる点が最大の利点です。

親水性レジンマトリックスにケイ酸カルシウムを配合する設計で、直接覆髄・間接覆髄に加えて生活歯髄切断法にも適応できます。

同シリーズのセラカルLCは光重合型で、セラカルPTはデュアルキュア型と硬化メカニズムに違いがあります。

ただし、レジン成分を含有するため長期的な生体親和性や封鎖性の点でレジンフリーの粉液型MTAセメントと同列に扱うべきではなく、症例に応じた選択が重要です。

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